SSブログ

楳図かずおの恐怖漫画的表情

私には同い年のいとこがいる。
性別も一緒。
だから、小さい頃はよく一緒に遊んだ。
しかし、母方のいとこだったので、父と母が離婚してからずっと会ってなかった。

そんなある日。
母から電話。

「パラナちゃん?お母さんだけど。あのね、いとこのチーちゃん覚えてる?
 今ね、パラナちゃんと同じ町に住んでるんだって。
 パラナちゃんの電話番号教えてあげてもいい?
 会いたがってるみたいなの」

「うん、いいよ」

ほぉ~。
チーちゃんかぁ。
懐かしい~。
もうどれだけ会ってないんだろ。
小学生の時以来だもんなぁ、10年は軽く会ってないな。
15年くらい?
うは~、会って分かるかな?
でも、ワクワクする。

私は当時25歳くらいだった。
最後に会ったのが10歳だとしたら、15年会ってない事になる。

そんなこんなで、チーちゃんから電話がかかってきた。
それはもう、久しぶりなのでテンションが上がってしまった。
早速、ご飯を食べに行く約束をした。

約束の日はあいにく雨だった。
傘で顔はよく見えない。
待ち合わせ場所で、他人の傘の中を伺うような事をしながら、ソワソワ立っていた。

「パ・・ラナ・・・ちゃん?」

「チーちゃん?」

キャーーーー!!!!!
お互いの肩をポンポン叩きあいながら、「懐かしいね~~!」の連発。

意外にもすぐにお互いが分かった。
いとこだし、そんなもんかも。
チーちゃんは母方の親戚のおばちゃんに顔がソックリになっていた。
DNAだ!と私は驚いたりもした。

お店の中に入って、アレコレ注文して、乾杯して、やっと少し落ち着いた。
お互い独身OLですよ。
話すことは山盛りあるわけで。
長い年月の空白はすっ飛ばして、「彼氏いるの?」なんて下世話な話で盛り上がった。
そして時間はアっという間に過ぎて、お開きの時間。
会計を済ませ、店の外に出る。

まだ、雨は降り続いていた。

チーちゃんが傘立てをゴソゴソしていた。

「どうしたの?傘見つからないの?」

「う~ん・・・」

「傘、無くなっちゃったの?」

チーちゃんは答えず、傘を一本、一本、引き抜いては戻す、の動作を繰り返していた。

「あ~、これがいい。これにしよ~っと」

(え???)

私は怪訝な顔でチーちゃんを見つめた。

「アタシね、雨が降る度に傘が良くなるんだよぉ~」

(はぁ???)

「傘立ての中の一番良いのに取り替えちゃうんだ」

(ナニイッテルノ???)

「じゃーねー。パラナちゃん、アタシこっちだから。パラナちゃん駅の方でしょ?
 ここでバイバイだね。またね~」

何分くらいそこに立っていたんだろう。
正気を取り戻した時には、彼女はとっくの昔に見えなくなっていた。
私はトボトボと駅の方に向かって歩き出した。
そして、ポロポロと涙が出て止まらなかった。
泣きながら、歩いた。
なんの涙だろう?
怒りとか、悔しさとか、そういうネガティブな涙だった。
そこにポリバケツがあったら蹴飛ばしてしまうような、何かに当たり散らしたくなるような、そんな気持ちが込み上げて、吐き気がした。

何かを踏みにじられた。
すごい大切なものを汚された。
思い出とか?
血のつながりとか?
よく、分からない。

心の中で母親を恨んだ。
あんな電話かけてくるから、こんな事になったんだ。
全く、あの女のやる事にはロクな事がないんだ。
あんな電話出なければよかった。
電話番号なんて教えるんじゃなかった。

全く、方向違いな怒りである。
でも、そうしなければ収まりが付かなかった。

この事を自分の中で風化させる為には数年かかった。
傘の件は誰にも言わなかった。
自分のいとこが傘泥棒なんて、誰にも、しゃべりたくなかった。
もちろん、その後、二度といとこには会ってない。

もうすっかり忘れた頃、母方の親戚に不幸があった。
とてもお世話になった人だったので、葬儀にかけつけた。
広い葬儀場で、パイプ椅子が沢山並んでいて、どこに座っていいのか途方に暮れていたとき、ポンっと背中を叩かれた。

振り返ると、そこに、いとこがいた。
ちょっと考えれば、その葬儀にいとこが来ることは容易に想像できたのに、迂闊な私はすっかり失念していた。
そして、ふと、いとこが抱えているモノを見た。

(ヒィィイイイイイイイ!!!)

私は心の中で絶叫した。
声にならない声というやつ。
恐怖漫画のように引きつった顔をしてしまった。

なぜ、そんなに驚いたのかって?

だって、いとこは赤ちゃんを抱っこしてたんだもん。


nice!(5)  コメント(10)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 10

な、なんという驚きっぷり!!
もう、本能とかそういったのに刷り込まれてますね…。
まさに、人間の本能の不思議っ!!
by (2006-11-21 10:04) 

ゆうこ

叫んじゃいますよね・・・・
赤ちゃんかぁ・・・・

自分が良ければ、他の人は良いのよ
という人は最近多いような気がします・・・
切ないですよね
by ゆうこ (2006-11-21 14:26) 

parana

>shinoさんへ

おひさ~^^

楳図かずおの恐怖漫画って、子供のころ怖くて読めなかったんですよ。
でも、大人になって読むと、怖くない、っていうか、なんか面白い。
こういう感覚って不思議だよね。

>ゆうこさんへ

>自分が良ければ、他の人は良いのよ
>という人は最近多いような気がします・・・

ゾっとするのは、悪いと思って無い事なんですよね。
悪いという自覚があるのら、それを止める事もできるけど、
悪いという自覚が無いから、止めるきっかけも掴めないわけで。
最近、乳母車とか、三輪車とか、そういう子供用品が盗まれる事があるらしいんですよ。
そういうの盗むのって子供のいる親ですよね。
怖いなぁ、ほんと。
by parana (2006-11-22 02:38) 

seita

世には子供に万引きをさせる親が相当数存在するそうです。幼少時からの悪事の刷り込みは間違いなく人格を歪ませ、隙あらばかすめ取ろうとする人種を生み出しますよね。哀しいことにヒドイ話がテレビから大量に流れ出て来る昨今、そうした子供が大量に発生しているんじゃないかと心配です。

私にできることは「子供がいたら信号無視しない」くらいです、とほほほ。
by seita (2006-11-22 07:11) 

下北沢、某劇場で出てきたら傘がない!
ふとマドの外をみると若いカップルが私の傘で相合傘
芝居が非常に楽しかったので、そのままにしました。
by (2006-11-22 10:42) 

マー

おそろしや、おそろしや・・・・(-_-)

けどね・・
日帰り温泉や、
イベント(収穫祭とか、○○祭)に
良く子供連れて行きますけど、
目を疑う事は多いです。

見本となる大人が、子供以上にマナー、モラルが
無いですからね・・・・悲しい事です。
子供に注意しているそばで、
こういったことをされると、ピエロのようで情けなくなります(ーー;)
by マー (2006-11-23 20:14) 

parana

>seitaさんへ

>世には子供に万引きをさせる親が相当数存在するそうです。

本当にねぇ・・・酷い世の中になってますよねぇ・・・。
泥棒とか万引きとか、そういう事をする人が飢餓に喘いでいるとか、そういう事情があるならまだしも、ねぇ・・・。
子供に万引きって、もう、末期的ですよね。
世の中メチャクチャだ。

>バンマスさんへ

>芝居が非常に楽しかったので、そのままにしました。

ですよね。
楽しい気持ちでいる時に、
「お前傘取ったな!返せ!このやろう!」とか言いたくないですよね。
良い人が損する世の中になってるのかも。
やだなぁ。

>マーさんへ

もうね、マナーやモラルを守れないなら、「子供作るなよ」って言いたいです。
時代劇とかで「末代までの恥」とか言うじゃない?
「お前らで末代にしとけよ!」って思う。
子孫残すなっつの。(あらやだ、過激)
いや、うち子供いないから、うちも末代なんだけどさ(笑)。
by parana (2006-11-24 02:39) 

kugna

モラルとかマナーとかエチケットとかって、
もう「死語」なんでしょうか???
私は、
「こんなひどい世の中に、
 親の身勝手で子供を放りだしちゃダメだ」
って、いつも亡父に言われてて、
自分自身、いまだにオトナじゃないと思ってて、
結局、結婚も出産も未経験です。
それはそれでカタワな気もしますが、
子供って「可愛い」から産むものじゃないですよね?!

 
by kugna (2006-11-25 15:20) 

JOHN

赤ん坊少女たまみ、思い出しちゃいました。ドキドキ。
いとこさん、今も「雨が降るたびに傘がよくなる」のでしょうか…
行く末が色々心配です。
by JOHN (2006-11-28 10:35) 

GEN11

気にくわなくなったからといって、子供まで取り替えたりしないでしょうか。
冗談じゃなく、ホントにそれが心配です。
by GEN11 (2006-12-17 06:32) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

先生振り向けばそこに ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。