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口やかましい隣人

10代の終わり頃だっただろうか。
ある小説の一節に、
「芸術の最大の敵は訳知り顔した愛好家だ」というのがあった。

この一節を読んで以来、私はずっとある事象に悩まされている。

実家に帰省した時、

「ね~、お父さん、例えば外食して不味いものを食べたとき「不味い」って言うよね?」

「うんうん」

「でもさ、それってさ、自分がそれ以上うまく作れる人しか言っちゃいけないと思うんだけど・・・」

「え~~~~。お父さんは不味いものは不味いって言いたいな~~~~」

「いやいや、私だって言いたいけど・・・言っていいのかなぁ?って・・・」

「う~~ん。難しいねぇ・・・」

私の心の中には、あの一節を読んで以来、口やかましい隣人が住み着いてしまった。

例えば、テレビを見ていて、下手な演技をする俳優さんがいたとして、
「下手だな~」って言うと、口やかましい隣人が出てきて、
「へぇ~、アンタあの俳優より演技うまいんだ?」とすごく意地悪な事を言い出すのだ。
これには参った。
かなりグサっと胸を突き刺されるわけです。

俳優だけではなく、歌手だろうと、お笑い芸人だろうと、何だろうと、ちょっとでも批判的な事を言うと、すぐに隣人が、勝ち誇ったような顔をしながら、
「へぇ~、アンタそんなにすごいんだ?」と言うのだからたまったものではない。

思えば、それまでは好き勝手に言いたい事を言っていた気がする。
言いたい事言うとスッキリするし。
でも、言えば言うほど、自分にグサグサと跳ね返ってくるようになったのだ。

あの日以来、私は口を閉ざし、心の中にモヤモヤを溜め込むようになってしまった。

しかし、である。
同じ言いたい事でも誉める事に関しては隣人は出てこないのだ。
「わーー!これ美味しい~~~!」って言っても、隣人はシーンとしている。
当たり前だけど。
でも、私にとってこれは救いであった。
「すごい!上手い!」って言う分には隣人は出てこないのだから。
これで少しだけモヤモヤを吐き出す事ができるわけです。
少しだけ、だけど。

ちょっと前、ハンバーグが美味しいと評判のレストランに夫と行った。
ハンバーグが好きな私としてはワクワクしてたわけです。
で、ハンバーグ登場。
一口食べる。
「・・・・・・。」

私は夫に言った。
「あの・・・私はこういう事は滅多に言わないんですけども・・・このハンバーグよりも・・・私が作るハンバーグの方が美味しい・・・ような・・・気がする」

なぜこのような言い方になったのかといえば、私は隣人を恐れているからだ。
つい、隣人にお伺いを立てるような話し方になってしまった。

夫は「うんうん」と大きく頷いていた。

隣人は?

(シーーーーーン)

やったぁ~~~~!
どうやら合格したようだ。

心の中の口やかましい隣人はだれよりも厳いのだ。

(追記)
しかし、ホント、この隣人には困ってるんです。
どうにか追い出したいけど、なかなか出て行かない。
なんでこの文章を書いたかと言うと、これを書くことによってひょっとして同じ事象で悩む人が出てくるかも、と思ったからです。
ええ、ええ、「お前も苦しめ~」という気持ちで書きました。
私一人では辛すぎるから。
「口やかましい隣人を持つ人の会」の会員募集中。(笑)
キャッチフレーズは
「あなたもモヤモヤを抱えてみませんか?」です。


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コメント 19

あちち

こんにちは

でも、お店でまずいものを出されたら、自分がそれ以上のものを作れなくてもまずいって言ってもいいと思うのだけど。だって相手はプロでお金を取るんだからさ。ボランティアで食べさせてくれているんだったら文句言えないけどさ。お金を払っているんだからまともなもの食わせろって主張すべきだと。
歌手も一緒だと思うけど。歌ってそれを売って商売(というか、生活のために稼ぐ)するんだし。でも、確かに自分ができないのに文句を言うのは気が引けます。私はだいたい自分ができないことに対して文句を言う場合最初に"私はできないけど"と言った後に文句を言うようにしているけど。(これもどうかとは思うのですが、、、)
by あちち (2006-02-19 03:48) 

函南

はじめまして。思うに、問題はそれが批評なのか、単なる貶しなのか、という点に帰着するのではないでしょうか。もちろんその二つの区別こそが難しいわけですが。批評の場合、悪い部分を悪いと言う必要があるのは当然で、さらに「ではどうすればさらに良くなるか」まで言えればベストでしょうが、そこまで言えなくても「ここが良くない」と対象に気付かせるだけでも意味があるのはないかと。
野球やサッカーの監督が選手よりも上手にプレーできるのかは問題ではありませんし、映画や小説の優れた評論家は、評した作品以上のものを作れる人間であるとは限らないと思うのです。
by 函南 (2006-02-19 12:21) 

函南

すみません、5行目最後
×あるのはないかと ○あるのではないかと
でした、失礼。
by 函南 (2006-02-19 12:23) 

ミルモでママ

こんにちは。
ぶふふふふ。
文句いいたくなるほど、まずいのってありますよね。
自分はできるのか?できませんとも。
でも、まずいものはまずい。それはいいんではないですか?
隣人がおとなしくなる日がくればいいですね。
by ミルモでママ (2006-02-19 13:22) 

ぽむ

わたしも、同じこと思います!同じです。
やり方が変だ、美味しくない、面白くない、かわいくない。そう口に出して言ってはみたものの
隣人がやっぱりしゃしゃり出てきて・・・グサグサ突き刺すんですよね。
それでわたしも、思っても言わないようにしてた時期がありました。
今は、隣人からの突き刺しには慣れてしまったように思います(^‐^;)
by ぽむ (2006-02-19 14:22) 

NO NAME

寄席で、あるとき
何を言っても大笑いする客がおりましたが
あれは、芸人さんを殺します。
受け手の厳しい目というのは、芸、芸人さんを育てると思います。
by NO NAME (2006-02-19 17:49) 

アキオ

うーん、、言っていいと思う、ただし、愛がなきゃね。

ですかね〜〜〜〜。

ま、嫌いだから文句、嫌だから文句、と言う事は
タマにのガス抜きには必要だと思う、、けど
言いたい放題言っていいとも思わない。
そこのさじ加減が微妙だ、、
by アキオ (2006-02-19 19:33) 

マー

う~ん、すっかり住み着いてるかも^_^;
二重人格ABさん~♪なのかどうか知りませんが
良く隣人さんが・・・
子供を叱る、諭す、すると~
「お前はいつから、そんな事言えるようになったのかな~?
君が、この子と同じ位の時は、どんな気分だったんだい?
素直な子供だったかい?」と。

隣人さん、仲良くやっていきますよ(^^)v
by マー (2006-02-19 21:42) 

ぱんだ

初めまして、いつも読み逃げしていたんですが。。。
ぱんだにも住み着いていますね~、隣人さん。小さいときから。
発言するのが怖いです、特に今「オリンピック時期」は(^^; 応援選手を激励しつつ批判したくなっちゃう。怖くて言えないけど。
立派に「口やかましい隣人を持つ人の会」の会員です。でも最近言える事が多いかも。『自分を戒める所じゃない』状況からか、はたまた『おばさん化』してきてるのか・・・。
by ぱんだ (2006-02-19 21:54) 

Nishi

アマチュアとして音楽をしている中で似たような悩みを持ったことがあります。

でも「愛好家」なのであれば、何を言ってもいいんじゃないかな。

「演る側の人間」が「単なる批評家」になっていくのはみっともないですが、純粋に好きで聴いたり食べたり見たりしている人は、素直に気持ちを発していいと思います。それが辛口批評でも率直に出てきたものであれば、価値のあるものと思います。

「演る側の人間」は、素直に喜んでもらえるものを提供できることを目指していると思うので・・・・・。お客さんの素直な反応は大事と思います。
by Nishi (2006-02-20 00:12) 

ぺえ

それ、すごくわかります!
僕の中にもいますよ、口やかましいの!
隣人、というより、もう一人の自分がゴチャゴチャうるさい感じですかね・・・。
by ぺえ (2006-02-20 03:12) 

JOHN

ありますあります。
「そういう自分はどうなんだよー!」っていう自分。
もう大変(笑)!モヤモヤたまりまくりですよぅ!
見事に表現してくれて嬉しくなっちゃいました!
paranaさんが語ると、納得しちゃうなぁ。
by JOHN (2006-02-20 16:26) 

ナツパパ

かなり前になるんですが、オリンピックで成績のふるわなかった女子水泳チームが、インタビューで言ってたことを思い出しました。
「そんなら時分で泳いでみろよ~~」
それを言っちゃお終いだ、と思いましたけどね。
by ナツパパ (2006-02-20 20:48) 

kyamerou

立候補しま~す♪モヤモヤ♪
by kyamerou (2006-02-23 19:24) 

mau

始めまして。ROM専門のmauです。私も隣人いるんですけど、ある特定の時はいないんです。それは言う相手がプロであるかと言うこと。それでお金を貰っている役者や料理人、歌手には思ってもいいと思うんです。私たちが仕事をして、それに対して客先から文句を言われるようなものですから。
by mau (2006-02-25 16:42) 

「あるある」って思いつつ、読ませていただきました。
不細工なくせに、他人を「不細工」と言う勇者って必ずいますよね。w
不愉快通り越して、感動すらおぼえます。

なんか、どっかのお寺の軒下に貼ってあったんですが、「本当のことは相手を傷つけるから言ってはいけない」みたいな文言があって、妙に納得したのを憶えています。
「芸術家&愛好家」の場合も、「料理人&食べる人」の場合も、「相手への愛情」という次元においては、本当のことであっても言うべきではないのでしょうね。
きっと短所については、本人が一番わかっているのだろうから。

芸術家を潰すつもりなら、言ってもいい。
しかし、その場合は「愛好家」ではなくなりますね。
by (2006-02-27 04:43) 

私にもその『隣人』はいつもいてくれます。
私も最初、戸惑いましたが、時間をかけて悩んで、今は仲良し。
その『隣人』は、私が否定や拒絶をしそうになった時、
 「じゃ、どんな風にすればもっとステキになるかな?」 って
優しく相談に乗ってくれて、もっとステキになるために、どうしたらいいかを
一緒に考えてくれてます。
その『隣人』は私の中の『優しい私』かな。
だから、もやもやはもういなくなっちゃいました。
by (2006-02-27 10:37) 

えきゅ

いつもはROMに徹しているのですが、思わずnice!
いますよ、私にも隣人が。
その隣人は、私の辛口批評だけではなく、
嫌いな人への悪口や、陰口のストッパーにもなっているので、
まあ、なんとか渡りを付けて上手くやっていますw
by えきゅ (2006-02-28 16:01) 

チサト

はじめまして。
いつも拝見させていただいてます。
パラナさんの文章はとっても心にきます。

このお話・・・
私も同じです!!
びっくりしたので思わずコメントです!
私は、彼氏が
「アイツつかえねーんだよ」
と言ったりする時などにもその現象が突然出てきて、
「自分がどれだけできるってゆうのよ!」
とキレて喧嘩になったりすることも・・・
無論、自分自身にもそうです。

と、勝手に書いてしまいましたが、また遊びにきます☆
by チサト (2006-04-26 15:53) 

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