SSブログ

教える

私が新入社員だった頃、「出来ないコ」であった事は前にも書いた通り。
理解力が遅く、周りをイライラさせていた。

で、その後日談。

あの頃、事務所はビルの中の3階と8階に分かれていた。
元々3階だけだったのだけど、人数が増えたので8階も借りたのだ。

で、私はその日8階で作業をしていた。
いつもながらに出来ない訳で、ちょっと遅くまで残っていた。
何時だったか忘れたけど、もう帰ろうかなぁ、と思い、3階に下りた。
3階の事務所に自分の机があるから。
更衣室があるのは8階だったけど、仕事の道具を仕舞う為に3階に下りたのだ。

3階の事務所のドアは少しだけ開いていた。
手をかけて開けようとした瞬間、声が聞こえてきた。

「もう!社長はどうしてあんなコを雇ったんですかっ!」

私はビクっとなり、ドアを開けるのを止め、隙間から中の様子を覗いた。
こうして書くとなんか「家政婦は見た!」みたいな感じで可笑しい。
でも、ホント、そんな感じだったのだ。

見ると、社長の周りに4人くらい社員がいた。
声の主は例のテニスに誘ってくれた(でも断わってしまってエライ目にあった)人。

で、「あんなコ」というのは当然ながら私の事だった。

「今度の採用は全員男性を雇うって言ってたじゃないですか!」
「なんで女のコなんか雇ったんですか!」

ジリジリと詰め寄られる社長。
なんかしどろもどろに答えている。

「い・・・いや・・・結構見込みあるかな・・とか・・思って・・・」

「全然出来ないですよ!」

「そ・・・そんな事もない・・と思うんだけども・・・」

「そんなに言うんだったら、社長が面倒見てくださいよねっ」

「いや・・・そんな・・・」

てなやり取りが繰り広げられている。

私はエレベーターに乗り、8階の事務所に戻った。

私はふぅ~っとため息をついた。

「あぁ・・・私のせいで、社長、あんなに詰め寄られて・・・可哀想に・・・」
「私なんか雇ったばっかりに・・・」
「迷惑かけちゃうなぁ・・・」

私はすっかり社長が気の毒になった。

こうやって書くと、私はつくづく図太い神経をしているなぁ、と思う。
普通、自分の事を「アホバカ」呼ばわりされているんだからそっちで傷つけよ、って思うけど、そういう事はあんまり気にならないのである。
多分、これは、父の影響だと思う。
何があっても「お宝さん」だの、「お利口さん」と呼ばれて育ったせいか、他人の自分に対する非難や批判に対して他人事のように感じてしまうのだ。
いや、だからこそ、嫌われるのだけど。
長所でもあり短所でもあるという、両刃の剣。

で、私は社長に大いに同情を寄せた訳です。
社長の為にもなんとか頑張らにゃイカン!と心に誓ったのだ。
その日はそこで着替えてそのまま帰った。

数日経って、私は社長から会議室に呼ばれた。
そこで社長は私に仕事を教えてくれたのだ。
まぁ、なぜ教えてくれるのか敢えて問うような事はせず、私は黙って説明を聞いていた。

で、で、で!
今までもや~~っと霧がかかっていたというか、混線していたというか、頭の中がグチャグチャになっていた事がスッキリしたんです!

私は感極まって言った。

「目からウロコが落ちたよ!」と。

「いやぁ、シャチョー教えるのうまいね!」と。

タメ口である。

社長は私のタメ口など気にする風でもなく。

「フッフッフ・・・そうでしょ?私、予備校の講師とか家庭教師のバイトをしてましたからね、教えるのはちょっと上手いですよ」

「へ~~!やっぱり?すごい分かりやすいもん、説明が」

「フフフ・・・私が教えた子はみんな志望校に合格しましたからね」

「うんうん!分かるよ、それ!」

私は自分がタメ口になってる事も忘れて、社長の教え方の上手さを誉め続けた。
それに気を良くしてくれたのか分からないけど、私の教育係はそれ以来社長になった。

私はその後「出来るコ」に変身した。

つまり、人間、「出来る」「出来ない」なんて紙一重の差みたいなものだと思う。
肝心なのは、教える側なのだ、と。

社長は社長であるけども、工学博士でもある人だったので、教える事が上手かったのだと思う。
頭の良い人程、サルにでも理解できるくらい分かりやすく説明できるのかもしれない。

サルっていうのは言い過ぎだけど。(笑)

もし、自分が教える側で、「あぁ、コイツ出来ねぇなぁ」と思ったとしたら、それは案外自分が「出来ないヤツ」なのかもしれない。

と、いう事を頭に隅に置いておくと良いカモ。


nice!(9)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 9

コメント 8

素人写真

教員をしていてつくづく「肝心なのは、教える側なのだ」と私も思っています。
教員と生徒,親と子,どちらにも当てはまると思いす。
by 素人写真 (2006-03-09 07:16) 

ぽん太

そこなんですよね・・まずは自分!から始まるんですけど、肩書きとかなんだかんだで勘違いする人も多いですしね・・。
by ぽん太 (2006-03-09 09:42) 

前記事の『鏡』とつながってるね。
やっぱり、『相手』は『自分』。
腹を立てたり投げたりしないで進めたら、自分も成長できるんだものね。
by (2006-03-09 13:51) 

自分に対する批判を聞いて他人事だと思えるってすごい♪
いーなー。私もそういう人間でありたいわ~☆
ステキな社長さんですね♪
by (2006-03-09 19:26) 

シロウ

子どもの宿題をみることがたまにあり
「上手く、教えられないなぁ。。。」と思ったことが何度もあります。
教えるからには、自分も成長しないとっ!という気分です^^
by シロウ (2006-03-09 20:13) 

教えるのがうまい人って素敵ですよ。
それだけ、人のことを、考えて教えてるって事ですもん。

人のことを考えてないと、物事は教えられないですよね〜。
いや、ほんと。

そこまで言わないとわかんないの?
みたいな事言う人は、すきくないです…。
by (2006-03-11 01:02) 

教えるのは教わるよりも難しいですよね!!
私は人様に物を教える時「どこがわからないか」を教わるように
心がけています。
心がけてはいます…

自分への批判を他人事だと思えるってすごい!!
やっぱりパラナさん父子ステキです!!
by (2006-03-12 00:15) 

しょ〜たろ〜

人に教えるって大変ですよね。
自分が解りきった事を教えるとどうしても基礎の基礎を省きがちですからね。そんなことまで教えなくても解るって思っちゃうんだよな〜。解らない人って基礎があやふやだったりするから底を丁寧に教えるとあっという間に理解したりするから手を抜いちゃ駄目な所なんですよね〜。
むずかしいむずかしい
by しょ〜たろ〜 (2006-03-30 23:49) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

相性 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。