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諦観

ある日、ある時、ある女のコがいた。

23歳?24?そのくらい。
とても可愛い容姿をしていた。
生まれつき舌が短いのか、話し方が舌っ足らずで、そんな様子を好ましく思う男性も多かった。
性格も社交的で友人知人も多かった。
華がある、というのだろうか、なんとなく中心的な人物になるタイプ。
プライドもとても高い。

何の問題もないコ。
誰もがそう思うであろうコ。

しかし、そのコは他人の幸福が何よりも呪わしいと思うコだったのだ。
自分のすぐ側で、幸福に浮かれている人間がいるとイライライライラしてしまう。
まぁ、幸福というのは、早い話、恋愛系の事。
そのコは、本当に、周到に、ソーっとその幸福を壊しにかかるのだ。
可愛い容姿、舌っ足らずなしゃべり方、頭の回転も速い、そんなコにかかれば、普通の男性はチョロイ。
赤子の手を捻る、という言葉があるが、まさにそんな感じ。

正直、私にはどうでもいい事。
恋愛で「盗ったの、盗られたの」って誰が悪い訳でもないし。
ついフラフラーっとなる男が悪いのだ。
もちろん、それがそのコの作戦だとしても、だ。

頭の良い彼女は悪者にならない。
「私にはそんな気がないのに、なぜ彼は私の事好きになったのかしら?」
自分から直接仕掛けた訳ではないので、そういう言い訳は充分成り立つ。
彼の心を奪われた方の女性はどうしようもない。
ただただ不幸に打ちひしがれるのだ。
そして、そのコはそんな女友達を慰めるのだ。
「大丈夫。彼はきっと○○ちゃんの事好きだって。気のせいだよ~」
加害者のようで加害者でない。

「悪質だなぁ」
私は、心の中でそう思った。

私には本当に関係ないけれど、身近な人間がその攻撃に遭い泣いていると何とかしたくなるのも人情。
つい、いらぬおせっかいを焼いてしまった。

私はその女のコに電話をかけた。

「あんまり、ムゴイ事しなさんな」

彼女はすぐに激昂した。

「私が何したって言うのよ!!私、全然悪くないし!!」

「うん。分かってるよ。別にアンタが悪いって訳でもないよ」

「・・・・」

「もうさ、いいじゃん、あんまり○○(私の知人)の事かまいなさんな」

「アナタにはカンケー無いじゃないですか!!」

「うん。私には本当にカンケーないけどさ、でも、やっぱり目の前で泣かれると、ねぇ?」

「・・・・」

「やっぱ可哀想だし。見てらんないし」

「・・・・」

「なんちゅーか、これはお願い、みたいなモンだから」

「・・・・」

ちょっと間をおいて、そのコは叫ぶような大声を出した。

「ワタシは両親に捨てられたコなんです!!!」

正直、ビビった。
声を発する事もできずにいると、

「小さい頃お母さんが出ていって、お父さんは再婚しちゃって、だからワタシは親に捨てられたんです!!!」
「ワタシの事なんて誰も心配してくれない!!!」
「誰も、誰も、心配なんかしてくれない!!!」

ワーワー泣き出す彼女。

「○○ちゃん・・・うらやましい。だってこんな電話してきてくれる人いて・・・」
「ワタシが同じ目に合っても、誰もこんな事してくれない・・・」

スンスン泣き続ける彼女。

すごい展開にただただ唖然とする私。

しばらくして、私は、ボソっとつぶやくように、
「捨てられてないよ」と言った。

そのコは素直に、
「はい」と言った。

「誰も、捨ててないから」

「はい」

「心配だってするし」

「はい」

「自分のこと、大切にしなくちゃだめだよ」

「はい」

「じゃぁ、これで電話切るけど・・・」

「はい。ほんと、ありがとうございました」

ガチャ。(電話を切った)

全く、何の電話か分からなくなってしまった。
今、こうして思い出しながら書いても、なんでこんな展開になったのか不思議だ。

しかし、この話を思い出す度に、両親の離婚、再婚を「捨てられた」と感じる子供って結構いるかもしれないなぁ、と思って切なくなる。
きっと親に聞いてもね、「捨てた」なんて絶対に言わないと思うけど。
でも、そういう事が問題ではなくて、子供が「捨てられた」と感じながら生き続ける事が問題だと思う。

大いなる欠乏感。
心の底の底に沈殿し堆積する想い。

でもさ、捨てられたとか、そんな事どうだっていいじゃん、って思う。
親には親の事情ってモンがあるし。
縁が無かったというか、運が無かったというか、廻り合わせが悪かったというか。
そういうのってどうしようもない。
私だって両親の仲が良い家庭で育ちたかったなぁって思う。
でも、こればっかりはどうしようもない。
世の中は自分の思い通りにはならないのだ。

諦めるという言葉は「明らかに極める」という意味らしい。
本当かどうかは知らないけど。
でも、前向きな響きでとても良いと思う。

明らかに極めろっ!
ワハハ。


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コメント 8

ダージリン

離婚って、その子どもにとって、これほどまでに傷を残すのか。それともその子どもの受け止め方次第?  いずれにしても、大なり小なり、子の人生観にも影響を及ぼすものなのでしょう。仲の良い両親の元に生まれて来る子と、そうでない子の違いは何なのでしょうか。
by ダージリン (2006-09-07 05:32) 

なんか、ドラマみたいで、ドキドキしました。

paranaさんの電話がかっこいい。

おっとこまえだとおもいました。

やるなー!!
by (2006-09-07 05:59) 

チサト

ズキズキです。
paranaさんの言葉にはいつも心動かされます。

私もその女の子に近い人間です。
いや、その子がどんな子なのかわかっているかは不明ですが。
小さい時から、問題のないいい子を演じるように育ってしまっているのでは。そうでないと自分が捨てられちゃうんじゃないかって思うから。
喧嘩したり、自分の感情を親にぶつけるのも、親がそれを受け止めてくれると感じているから。
けど、そういうタイプの子は、親にはむかうと捨てられちゃうと思って、喧嘩もできないんです。おかしいですよね。
うちの場合は毎日「アンタさえいなければよかったのに」って言われてたり、色々理由はあるのですが・・・(暗くてすみません!)
家族に悪いとこを見せないから、その悪いものがたまって違う方向へ向かってしまう。
どんな形でも、親から『おまえは大切な存在なんだよ』ってメッセージを発信して欲しいから、好かれるように頑張るんです。
けど、親はしっかり向き合ってくれない。

勿論、自分がどんな風に育とうが、人の幸せを壊しにかかってはいけないです。
幸い私はそういうことをしようとは思いませんが・・・
きっと、どんだけ人の目を集めても、孤独なんですね。

親だって人間だし、神様じゃないから。
失敗だってするし、後悔することだってたくさんあるし、思い通りにならない事もたくさんあります。
自分が辛い時に子供の事をしっかり見てろって言われても、私だってできないかもしれない。
それもわかっているから、許したいとか諦めたいという気持ちは強いです。
なのに虚無感が拭えなくて、どうしても許せなくて、何で許せないのかと、もっともっと自分を責めてしまう。ますます自分の価値がなくなっていく。

なんとなく、離婚と言う問題よりも、その過程や状況に問題があるのではないかなと思います。
その子も、『お前は大切な存在なんだよ』と、親に一言言って欲しかったのではないかな・・・
自分を生んでくれた、たっとひとつの家族ですから。

深く考えると、不幸に酔っているんじゃないかと思えるときさえあります・・・いかんいかん。
本当に、明らかに極めたいです。。
だけどね、自分の過去がどうであろうと、許せようが許せまいが、他の人を傷つけちゃいけないと思う。それは本当にいけないことだもの。。
(長々とすみません!)
by チサト (2006-09-07 10:51) 

りこっち

「~しなさんな」という言葉で亡くなった母を思い出しました。
この言葉ってなんとなくやんわりとした響きがありつつも、けっこう抑止力がありますね。。。
どんなひとにも心の傷はあるものですね。。。
by りこっち (2006-09-07 15:48) 

お邪魔します☆いつも楽しく読ませて頂いております。

なんだか、かわいそうですね。
一生懸命ツッパってる「私なんて誰も心配してくれない」さんが。
paranaさんから電話もらえてよかったね。
卑屈になってしまったら底が無いんだよ。
発想の転換でとっても楽になれるから、がんばってほしいわ~

>どんなひとにも心の傷はあるものですね。。。
 全くです。なんにも無い人なんてイナイもの。
 
ちょっと変なんだけど、すごくやさしい気分になってきたな~
ほんわかしてきちゃった。 
by (2006-09-11 12:46) 

parana

>ダージリンさんへ

こういう重い系にレスして頂きましてどうもありがとうございます。
離婚、再婚がどれほどの傷を残すのか、実際よく分からないんですよね。
いや、離婚、再婚に限らず、仲の悪い夫婦の下で育つ事も、少なからず影響を与えると思いますし。
ほんと、難しいです。

>shinoさんへ

おとこまえでそ?^^
へっへっへ。

>チサトさんへ

いつも私のツマラン文章を真剣に読んでくれてありがとう^^
誰かのね、胸にビビっときたら嬉しいなぁ、と思いつつ、いつも書いてます。
万人受けはしない事ばっかり書いてるもんね、アタシ。

自分の心がズタズタだと、ついつい他人に酷い事したり、言ったりするんですよね、人間って。
でも、それが悪い事だとは思えないのよね。
なんか、もう本人は一杯一杯なんだろうなぁ、って思うし。
いつか、ハっと気付いて、良い方向に向かえばいいなぁ、って思います。

>りこっちさんへ

言葉って同じ事を言っても、ニュアンスで随分印象が違ってくるから難しいですよね。
特に語尾は大切かなぁ、と。
個人的には熊本弁の「やめなっせ」っていうのが好きです^^

>ぴれさんへ

やさしい気分かぁ。
嬉しいなぁ^^
ボチボチしか書けないけど、これからも読んでくださいまし^^
by parana (2006-09-12 00:38) 

JOHN

paranaさん、カッコイイですっ!
両親が離婚してたりすると、時々捨てられた気分にわざわざ
浸りたくなるってのもあります。うん。不安定なお年頃にはありました(笑)。
自己憐憫ってヤツです。でも、それを人にぶつけちゃいけません。
はっきり言ったparanaさんはやっぱりスゴイ。
by JOHN (2006-09-16 01:02) 

parana

>JOHNさんへ

自己憐憫、確かにありました、私にも^^
悲劇のヒロイン気分というか。
でも、やっぱり、自分でカッコ悪いなぁと思ってヤメちゃったけど。
本当に世の中なるようにしかならないなぁ、っていつも思う。
泣いても嘆いても誰かを恨んでも仕方ないよねぇ、って気持ち。
やっぱりね、前向きに笑顔が一番だなって^^
親の離婚で寂しい目に合っちゃったけど、ひょっとしたら、同じ境遇の人を励ませたりできるかもしれないもんね。
転んでもタダで起きないぞ、って感じ。(笑)
by parana (2006-09-21 02:10) 

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